脳動静脈奇形の体験談【ざいあんさん】

治療法の検討【ざいあん】
  • 当サイトは、個人の貴重な経験を発信・共有することを目的としています。最新の医学情報・治療方法などの情報を提供するものではありません。病状や経過、治療への向き合い方などはそれぞれ異なりますので、必ずご自身の主治医と相談してください。
  • 体験談は医師によるチェックを行っており、明らかな間違いや誤解を招くような表現はないようにしていますが、なるべく発信者の生の声をお届けするために訂正は最小限にとどめています。

ざいあんさんのジャーニー

ざいあんさんのプロフィール
患者との関係性   本人
病気発症時のご年齢 30代
性別        男性

病名        脳動静脈奇形
診療科       脳神経外科
治療箇所/部位   脳(左側頭葉)
初期症状      5分~1時間程度の失語症が1ヵ月に1回程度発生。

ざいあんさんのジャーニー

ざいあんさんの体験談

病気の診断

初期症状が現れた時期:2022年4月、病気発覚の時期:2023年4月

初期症状

発覚する1年ほど前から5分程度、失語症(言葉が聞こえるが理解出来なくなる)1が発生。頻度は1ヶ月に1回程度。他の人が「送られたメール」や「話されていること」の言葉を頭で理解出来なくなる、ということが突然仕事中に発生するようになりました。

当時は「失語症」という言葉を知らなかったので、インターネットで「頭 働かない」と検索をしてこの違和感のことを情報収集しようとしました。すると、真っ先に出てきたのは「睡眠不足」や「疲れ」、「ストレス」という言葉でした。確かにその頃、仕事が忙しくて終電帰り、睡眠時間も3~4時間となることが続いていたので、「やっぱり睡眠不足が原因」と考え、放置していました。2

診察のきっかけ

『言葉が理解出来なくなる違和感』を感じながら過ごして1年経ったある日、会社での業務を継続していましたが、会社での業務中に会議中の発表場面にて失語症の症状が発生、周囲から奨めを受けたことで脳神経外科に受診を決めました。

病気判明

病名を宣告された時は「???」と頭の中が真っ白になったのを今でも覚えています。

病院に到着して、早速に医師に「言葉が理解出来なくなる違和感」を伝えたところ、脳に何かしらの異常がある場合に表れる症状だと告げられ、脳腫瘍の可能性も示唆、すぐにMRIでチェックをしましょう」と言われました。

MRIはたったの30分程度でしたが、1年も放置していたので心の中は全く落ち着きませんでした。

MRIが終わり、再度診察室に入ったところ、深刻な表情をした先生から「予想した通り、あなたの脳には異常がありました。『脳動静脈奇形』3という病気が見付かりました」という宣告がありました。

落ち着いて話を聞いたところ、私が抱える「言葉が理解出来なくなる違和感」の症状は『脳動静脈奇形』によって脳血管の血流が乱れて発生した『てんかん発作※』による『失語症』である可能性が高い、とのことでした。4

※脳にある神経細胞の異常な電気活動により引き起こされる発作のこと

治療方針の検討

検討時期:2023年5月〜2024年5月

選択肢

脳動静脈奇形の治療には以下の選択肢があり、細かい説明を受けました。それぞれにメリット・デメリットがあり、合わせての説明でした。

(1)開頭手術(摘出手術)
【メリット】『てんかん』や『脳出血』の要因であるナイダスを摘出するため、根治することが出来る
【デメリット】身体への負担が大きい、手術による後遺症リスクがある

(2)カテーテル手術(血管内治療)
【メリット】開頭せずに血流を正常な状態に戻すことが出来る
【デメリット】ナイダスは身体に残るため、再発リスクや脳出血リスクは引き続き残る

(3)ガンマナイフ(放射線治療)
【メリット】身体への負担が最も少ない
【デメリット】治療に年数がかかる、即効性がない、不確実性が大きく血流に乱れが生じる虞がある

(4)経過観察
【メリット】身体に負担がかからない
【デメリット】服薬により『てんかん』の症状は抑えるが、脳出血リスクは残ったままの生活になる(病気は残ったまま)

方針決定

治療方針を決めるべく妻と何度も相談をしました。

病院の診察に従えば(2)カテーテル手術→(1)開頭手術、という進め方になります。果たしてそれで良いのか。

現在、私は単身所得での生活を行っています。私の所得にて家族の生活を養っている、そう考えると、この病気と長く付き合っていくのはリスクであり、早く治せるならそれに越したことはないので(4)経過観察とすべきではない、病院の診察を踏まえれば(2)カテーテル手術→(1)開頭手術とするのが一番の道である、そう話しました。

では、病院の診察を信用して良いのか、そこにも不安がありました。知名度の高い病院であり実績はあると先生から伺いましたが、自分たちは素人なのでそれが本当なのかもわかりません。セカンドオピニオンも対応可能、ということは言われていましたが、果たしてその意味があるのかもわかりませんでした。

結局、妻と話し合った結果、「リスクを抑えて処置が可能」という病院の言葉を信じ(そう先生が言ってくれている中でセカンドオピニオンを行うことは無意味と考え)、(2)カテーテル手術→(1)開頭手術で進めることにしました。

開頭手術

治療の時期:2023年7月

治療前の準備

前日にはカテーテル手術を行いました。

朝9時、手術室に到着すると、また複数の先生たちが待ち構えてました。

カテーテル手術の時から膀胱留置カテーテルは付けたままですし、事前の検査も昨日の手術前に実施済なので、準備も着々と進んでいきました。当日は正直、あまり準備という準備はありません。

先生も「寝てる間に終わるから」と話してくれていたので、不思議と手術前の恐怖も少なくなっていきました。昨日のカテーテル手術も気付いたら手術後になってたし、今回もアッいう間に終わるのかもしれない、そう思ったら少し楽になりました。

「さあ、これから全身麻酔をしていきますからね」

その言葉と共に、僕は眠りにつきました

治療中の出来事

どれだけの時間が経っているのだろう・・・目覚める前、「一体僕は誰なんだろう・・・」と彷徨っている別人格になった感覚がありました。その後、無理やり自分の身体に押し込められて人格形成をさせられるような、そんな感覚と共に目覚めました。目覚めた瞬間、体中に電撃が走ったような激痛、「うわぁ!!」と叫んだと思ったのに全く口元、いやそれどころか身体中の感覚が全く無く、うっすら右目だけが見えました。

治療の感想

僕はカテーテル手術含め、過去2回の全身麻酔の経験がありますが、どちらも「麻酔しまーす」の直後に「はい、手術終わりましたよ」の場面に切り替わっていたので今回も同じと思っていたのに、、、本当に大違いでした、、、正に一度死んでから生き返ったような、、、そんな感覚でした。

ちょっとずつ頭の感覚だけが回復してきたタイミングで、呼吸をするように指示がありましたが、その呼吸がまた辛い、、、無理やりにでも吸って、無理やりに吐くことをしないと出来なくて、続けなければ息苦しい、そんな感覚。「呼吸するのが辛いんですが・・・」と先生に尋ねると、「全身麻酔の時は呼吸器でしたからね、直に回復しますよ」とのサラッとした反応でした。

身体は触られたところだけが感覚を取り戻せました。触ってもらえなかったところが一部あり、身体が裂かれたような不快感があったので、周囲の先生たちに「感覚がないです!触ってください!」と叫びました。僕の頭がパニックの状態のまま話していたので、先生たちも「???」と首を傾げていました

治療後の経過

CU(集中治療室)へ移動。そこで家族と面会。10時間超の長丁場だったので9時に始まったのにICU(集中治療室)に戻れたのは20時過ぎです。

身体中の感覚が戻ると同時に身体の痛みが発生。一番辛いのは何といっても頭です。傷口、と言われるところが全体が焼けるような、そんな感覚で痛み出してきました。また、頭の中で脈を打つ音が傷口から聞こえ、それに合わせて震えるような感覚がずっと残ってました。

飲食も禁止、携帯も禁止、頭は痛くて煩い、腰も痛い、呼吸も辛い、そんな状態が続く、もう本当に地獄でした。一瞬寝れた、と思っても、寝ると呼吸が出来ないので5分後に咽て目覚める、それの繰り返しでした。

一般病棟に移動すると、先ずは膀胱留置カテーテルを外すところから始まりますが、痛みへの耐性が付いたお陰か軽く感じました。

食事も体力的にしんどくて食べられませんでした。

術後2日目の夜は頭蓋骨をくり抜いた後がどんどん腫れてきました。前日と同様痛みも振動も音も止まらず、なかなか寝付けません。

術後3日目も状況はあまり変わらずで、むしろ頭蓋骨は更に膨れ上がり、目元まで及んで片目が開かなくなりました。ただ、食欲は少し回復、食事も全て食べられるようになりました。

4日目になると、呼吸の息苦しさや頭の痛さが和らいでいきましたし(痛み止めを使ってではありますが)、ご飯も残さず食べられるようになりました。抜糸(頭に固定している金属の取り外し)も一部行い、その日からシャワーを浴びれるようになりました!久しぶりのシャワーは気持ち良く、2~3時間で目覚めはするものの、その日から寝付けるようにはなりました。随分シャワーを浴びてなかったせいか、身体中は痒くかったのですが、感じる痛みが弱まってきたからこそだろう、と前向きな考え方も出来るようになりました。

伝えたいことと感想

伝えたいこと

病気を告げられたとしても、この病気に気付けた、そのこと自体はとても運が良い、そう思ってください。脳動静脈奇形は「脳出血」によって発覚することが半分以上だとお医者さんには聞きました。知らない間に脳出血になって、命の危機に晒されてしまうことも多いので、発覚したのは運が良かった、そう思うことで少し気も紛れます。

稀少疾患であるが故に近くに同じ病気の人はまずいないと思います。でも、日本中にはたくさんいます。あなたは一人じゃない。手術後は辛いと思いますが、頭の痛いのも治りますし、終わってしまえば「あの時は辛かった」という思い出に変わります。家族とのご飯や、さり気ない会話に、本当に感謝出来るようになります。人生は素晴らしい、喜びも人一倍感じられるようになります。だから、乗り越えられる、自信を持ってくださいね。

また、東京都には自立支援医療(精神通院医療)の制度があります。てんかんは当制度の対象となる疾患です。てんかんに関わる診療に対し、通常は3割負担となるのですが、申請手続きが承認されれば1割の負担になります。この制度を知ったのが私はてんかん治療を開始して半年以上経った後でした(病院からの案内はありませんでした)。もしこの体験談を読んでいててんかんの症状がある場合は、お住まいの自治体で当制度があるかを確認してみると良いと思います。東京都の場合は保健所にて詳細の説明を受けることが出来ました。

感想

何よりも「健康が一番大事」ということにこの病気によって気付かされました。

人生観も大きく変わりました。自分にとって一番大事なのは『家族』、でもその『家族』を守るために必要なのは無理して仕事をすることじゃない、『健康』でいることが必要なんだ、と心に刻みました。

同時に思ったのは、どれだけのサラリーマンが『健康』を優先して働いているのだろうか、と感じてます。周囲を見ても、みんな仕事を頑張り過ぎではないか、体調は大丈夫なのだろうか、と思います。

より健康を意識した生活をする、それを胸に日々過ごしていきたいです。



  1. 【注釈】聴力には問題が無く相手の言葉が聴こえているのに大脳で言葉の意味を上手く理解出来なくなる症状 ↩︎
  2. 【注釈】実際に「人の発言が頭に入って来ずらい」「小説の同じ部分を何回読んでもなかなか頭に入ってこない」といった経験は健常者でも少なからず何度かは経験した事がある症状なので頭が疲れているだけかも等と深く受け止め無い事が多い事から失語症の初期症状はなかなか自覚出来ずに暫く放置してしまいがち ↩︎
  3. 【注釈】「奇形」と聞くと「身体の外見的な異常」を連想しがちですが奇形は何も「外から見える場所」だけに生じるとは限らず心臓等の臓器や血管にも奇形があり外から見えないぶん症状が出るまで気づけないので発見が遅れます。脳の動脈と静脈の先天的な形成異常が「脳動静脈奇形」です。 ↩︎
  4. 【注釈】脳動静脈奇形は必ず失語症状や癲癇症状が出る訳ではありません。その症状は脳動静脈奇形が出来た場所によって様々です。私の場合は脳動静脈奇形があった場所がたまたま言語中枢に近い場所だったので失語症状と言う比較的本人が自覚しやすい症状が早い段階から出現した事で早期に発見できましたが人によっては、力が多少入りにくい、単なる原因不明の頭痛等の軽微な症状で長年放置される事も多く、脳出血を起こすまで全く無症状の人も半数程度います。 ↩︎

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