
カイさんのジャーニー
カイさんのプロフィール
患者との関係性 本人
病気発症時のご年齢 20代
性別 男性
病名 全身性強皮症・間質性肺炎
診療科 皮膚科
治療箇所/部位 全身の皮膚、肺、食道
- 2016年7月
- 初期症状
- 診察のきっかけ
- 病気判明
- 2020年2月
- 選択肢
- 方針決定
- 2020年4月~
2022年9月- 治療前の準備
- 治療中の出来事
- 治療の感想
- 治療後の経過
- 2022年9月〜
2023年8月- 治療前の準備
- 治療中の出来事
- 治療の感想
- 治療後の経過
- 2023年
9月〜現在- 治療前の準備
- 治療中の出来事
- 治療の感想
- 治療後の経過
- 2024年8月
- 伝えたいこと
- 感想
カイさんの体験談
病気の診断
初期症状が現れた時期:2016年3月、病気判明の時期:2019年11月
初期症状
身体が冷えてくると指先が紫色1になるようになったことです。色が変わるだけで痛みは無く、感覚も十分にあった為、日常生活に特に支障はありませんでした。
診察のきっかけ
家族に何気なく話したところ、幼少期からお世話になっているクリニックに診てもらうことを勧められたことがきっかけです。しかし、そのタイミングでは触診の上、特に問題なしと診断されました。
病気判明
指先の変色は続いていたものの、健康診断ではいつも健康と診断されていた為、特に気にかけていませんでした。
2019年10月:頭部に軽度の脱毛症が出たことで、近所の皮膚科クリニックを受診しました。その際、軽い気持ちで指先が紫色になることを相談したところ、血液検査をすすめられました。そこでは、普段の健康診断では考えられない量の採血をされたことで少し不安を覚えました。そして、1週間後に結果を聞きに行く予定が、次の日に医師から電話がかかってきて「難病の可能性が高いので、すぐに指定の大学病院を受診するように」と指示をされました。その時には、これまで経験したことのない不安と、何とかなるだろうという楽観的な気持ちが半々でした。
2019年11月:クリニック指定の大学病院を受診し、2日間に分けて精密検査(血液検査、CTスキャン、レントゲン、心電図、胃カメラ、大腸カメラ、呼吸機能検査)を行いました。検査をする過程で医師からは全身性強皮症2の可能性があると言われていました。ネットで病名を調べると「90%以上が女性で40代以降の患者さんである。」という記載があり、深く調べずに自分には関係ないと解釈していました。今思えば、少しでも安心したかったのかもしれません。
検査の結果、全身性強皮症と診断されました。また、悪化はしていないが、今後急速な進行が予測されるため、より専門に研究を行っている大学病院への転院、そして2~3週間程度の検査入院を勧められました。しかし、その病院には片道1時間以上かかり、かつ、検査入院となると仕事に支障が出るため転院は難しい状況でした。そのことを医師に伝えたところ、「今から治療をしないと3年後には10メートル歩くことが難しくなりますよ。」とはっきりと言われました。この言葉で頭が真っ白になったことを覚えています。ようやく事の重大さを理解し、検査入院を前提とした転院を受け入れました。その後、家族や職場に感情を押し殺しながら、何とか報告の電話をいれた時の不安で押しつぶされそうになる気持ちは昨日のことのように覚えています。3
治療方針の検討
検討時期:2020年2月~2020年3月
選択肢
1.強皮症の進行止める治療(抗核抗体4数値を抑制する)
(1)ステロイドの内服。
(2)抗悪性腫瘍薬/リツキシマブの点滴注射、または皮下注射
(3)免疫抑制剤の服薬
(4)治験薬5の皮下注射
2.血管を広げ、血流をよくする治療
└血管拡張薬/ボセンタン水和物の服薬
3.胸やけなどの消化器症状を抑える治療
└上部消化管疾患治療薬/モサプリドクエン酸水和物の服薬
4.逆流性食道炎の治療
└上部消化管疾患治療薬/ボノプラザンフマル酸塩の服薬
方針決定
前提として、この時点では症状は比較的軽度であり、基本的には投薬または服薬で治療可能でした。
その上で、最も優先度の高い①強皮症の進行を止める治療に関しては(エ)の治験薬の皮下注射を選択しました。理由は2点です。
1)この治験は最終段階まで進んでおり、抗核抗体の数値抑制や皮膚硬化の改善がみられる。
2)他の薬に比べて副作用が少なく、厚労省指定のオーファンドラッグ6であり安全性が高いこと。
その他の②~④に関しては全て服薬することにしました。
【決定した治療方針】
・2~3か月に1回の通院
・治験薬の皮下注射を2週に1度行う。腹部に対して注射。
・トラクリアを朝夜1錠ずつ服薬
・モサプリドを朝昼夜1錠ずつ服薬
・タケキャブ(ボノプラザン)を夜1錠服薬
①治験薬での強皮症の進行抑制
治療の時期:2020年4月〜2022年9月
治療の内容
- 2~3か月に1回の通院で血液検査(半年に1度のCT、レントゲン、心電図、呼吸機能検査)
- 治験薬の皮下注射を2週に1度行う。腹部に対して注射。
- トラクリアを朝夜1錠ずつ服薬
- モサプリドを朝昼夜1錠ずつ服薬
- タケキャブ(ボノプラザン)を夜1錠服薬
治療前の準備
(1)2週間の検査入院(CT、MRI、レントゲン、心電図、メスを使った皮膚の採取、血液検査、大腸検査、胃カメラ、呼吸機能検査、服薬)
(2)治験参加の為の説明を受ける。
(3)治験参加の為の同意書を記入。
(4)皮下注射の練習
治療中の出来事
高額医療制度の承認が降りるまでの金銭的な負担がとても大きかったです。3割負担でも月の薬代が約10万円でした。検査入院でかかった入院費と薬代で40万円近い請求が来たときは気を失いそうでした。当時コロナの影響で保健所の手続きが遅延しており、通常よりも手続きに時間がかかったことも重なり、新卒2年目の一人暮らしの家計には大打撃でした。親にお金を借り、なんとかしのぐことが出来ましたが、もし金銭的に頼れる人がいなかったら治療を諦めていたかもしれません。
治療の感想
腹部への皮下注射になれるまで時間がかかりました。1か月ほど投薬すると慣れてきて、抵抗もなくなりました。
治療後の経過
投薬開始から半年は特に効果がなく、抗核抗体の数値が上昇し、皮膚硬化が進行し、指先に潰瘍が見られてきました。また、階段の上り下り等の少しの運動で息切れが感じられるようになりました。
しかし、半年後から効果が出始めて抗核抗体の数値は上昇が抑えられ、皮膚硬化や指先の潰瘍7も進行は見られなくなりました。治験薬の効果が出始めた可能性が高いです。
②免疫抑制剤を用いての強皮症の進行抑制、間質性肺炎の治療
治療の時期:2022年9月〜2023年8月
治療の内容
- 2~3か月に1回の通院
- 免疫抑制剤を朝夜3錠ずつ服薬(後に朝夜6錠ずつ)
- バクタ配合錠を服薬
- トラクリアを朝夜1錠ずつ服薬
- モサプリドを朝昼夜1錠ずつ服薬
- タケキャブ(ボノプラザン)を夜1錠服薬
治療前の準備
- 免疫抑制剤の副作用の説明を受ける。
- 間質性肺炎と思われる症状の記録
治療中の出来事
2022年8月頃から咳が出始めました。その時は肺に線維化の症状は見られず間質性肺炎ではなく、喘息などのアレルギー反応の疑いがありました。最初は軽い咳止めなどを処方してもらいましたが効果はありませんでした。咳が徐々に酷くなり日常生活に支障が出始めました。当時、営業職をしていたこともあり、影響は小さくありませんでした。そこで、より作用の強い薬を希望しましたが、使用するには治験を外れる必要がありました。当時、抗核抗体の数値の上昇は見られなかったため、間質性肺炎の進行を治療を優先させるべく、治験を外れる8決断をしました。治験自体も有効性が認められ、保険承認も近いと予測された為、強皮症の進行が見られた場合は保険承認されたのちに再度使用すればいいと考えていました。
治療の感想
免疫抑制剤の大きい錠剤を一気に服薬すること。なれるまでに2週間ほどかかった。
治療後の経過
間質性肺炎9の進行が想定以上に早かったこと。日々症状がひどくなり、1年ほどで肺機能が著しく低下していったこと。
③アクテムラを使用した強皮症の進行抑制と間質性肺炎の治療
治療の時期③:2023年9月〜現在
治療の内容
- 1か月に1回の通院
- 週に一度のアクテムラを腹部に皮下注射
- 免疫抑制剤を朝夜6錠ずつ服薬
- バクタ配合錠を服薬
- トラクリアを朝夜1錠ずつ服薬
- モサプリドを朝昼夜1錠ずつ服薬
- 上部消化管疾患治療薬/ボノプラザンフマル酸塩を夜1錠服薬
治療の感想
投薬開始から約半年間は間質性肺炎において悪化が続きました。特に肺機能の低下が止まらず2024年4月時点で肺年齢が95歳以上と診断されました。この時点では将来的な肺移植に向けた検討を開始し、臓器職の担当医師と面談も行っていました。移植手術は5年以内の生存率は60~70%であり、その生存率を大きく下回る場合に手術が受けられるものです。また、もし手術成功しても数年は日常生活が大幅に制限されます。肺の数値が下がるたびに、命を蝕まれている感覚があり、将来への希望はありませんでした。
しかし、およそ半年が経過した時点で効果が出始めて肺の炎症数値であるIL610が基準値を下回り、油断は出来ないものの、肺移植の検討は一時ストップ出来ています。
治療後の経過
薬自体の副作用は幸いなことに大きくありませんでした。しかし、薬の効果が数字に出始めるまで半年ほどの期間があり、その間は非常に不安な生活を余儀なくされました。 また、治験薬を使用している際は症状が改善に向かっていました。しかしアクテムラやステロイド薬では進行を抑えることが目的になります。間質性肺炎は改善は見られていますが、強皮症自体の改善のチャンスが無くなってしまったことは残念でなりません。
伝えたいことと感想
伝えたいこと
・指先は季節を問わず絶対に冷やさないでください。
・投薬の効果はすぐに出ないからと言ってすぐにあきらめないでください。
・強皮症は非常にマイナーで周囲の人から理解されにくい病気です。特に女性の場合は更年期の症状などと勘違いされて、必要なサポート受けられないケースが多くあるようです。
・診察する医師の認識に大きな差があります。強皮症は放っておけば治るという認識の先生がいます。鵜吞みにせず、経験のある先生を見つけてください。
感想
肺移植を検討していたときは10年後に生きている確率は五分五分という状況でした。その時に感じたのは、これまでは自分がやりたいことを我慢していたんだなということです。誰かに言われたから、今は時間が無いから、などと理由をつけている内に身体の機能は落ちていきます。多少わがままになって今出来ることにフォーカスしよう、という気持ちを持つようになりました。
- 【注釈】血液が行き届いていない状態です ↩︎
- 【注釈】《全身性強皮症とは、皮膚や内臓が硬くなる病気》です。皮膚が硬くなるという状態はなんとなくわかりますね。作家は常にペンを持って仕事をしていますから、ペンが触れるところが硬くなります。ペンダコといいます。剣道の有段者は長い期間にわたって竹刀を握りしめますので、手のひらが硬くなります。竹刀ダコと呼ばれる状態です。ともに、皮膚が硬くなっています。
では、内臓が硬くなるとはどのような状態でしょうか。
この病気で硬くなるのは、肺、心臓、腎臓、消化管です。これらの内臓はとても柔らかです。それが硬くなります。少しわかりやすく例を出しますと、レバーの刺身を食べたことがある人は、レバーは生の状態ではぷよぷよして軟らかいことを知っています。そのレバーを焼くと硬くなりますね。極端な言い方ですが、内臓も病気で硬くなるのだと理解してください。 ↩︎ - 【注釈】インフォームド・コンセントでは、できる限り患者に不安を与えないようにと努力します。ですが、一般論ですが、人は自分のことはややもすれば楽観的にとらえたいものなのです。その時には、臨機応変に、ご本人の為にも、少しきつめに表現します。 ↩︎
- 【注釈】私たちの体に細菌やウイルスなどの外敵が侵入してくるのを防いでくれるシステムを免疫といいます。その免疫が下がると、私たちは感染しやすくなります。そのような、本来は私たちの味方である免疫が、なんと、私たち自身を攻撃してくるという厄介な病気があります。このような病気のことを、自己免疫疾患といい、強皮症もこの範疇に入ります。自己免疫疾患の存在を示す検査の一つが、抗核抗体検査です。 ↩︎
- 【注釈】まだ市販されていない医薬品ですが、人体に与える安全性は一応確認されたものです。あなたが受けたのは、効果があるか否かを判断するためのテストです。治験薬と耳にすると、直ぐに人体実験という人もいるのですが、その新薬で治る可能性もあるのです。 ↩︎
- 【注釈】患者数が5万人未満の稀有な疾病に対する医薬品 ↩︎
- 【注釈】強皮症の最もよく知られている症状は、手足の指さきの潰瘍です。 ↩︎
- 【注釈】治験では新しい薬の治療効果を見るのが目的です。ですから、治験している薬の効果と似た用を持つ薬や、似た副作用が出る可能性がある薬を同時に使用しては、治験そのもののデータが不正確なものになります。そこで、別の薬を使う場合には、治験が中止されます。離れるとは、中止することです。 ↩︎
- 【注釈】ここで初めて肺炎の病名が出てきましたが、強皮症と判明した2019年の時点では、肺のレントゲン検査では明らかな所見はなかったと推測されます。
4年後の出来事として、咳が出るのでレントゲン検査をしたら、肺に影があったのでしょう。間質性肺炎はその6割が原因不明です。それにも関わらず、この病気になると、余命は最も短い場合には数年しか生きられない怖い病気なのです。 ↩︎ - 【注釈】インターロイキン6と呼ばれる物質で炎症があると上昇します。 ↩︎
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